In response to...

昨日のエントリには大反響をいただきましてありがとうございました。正直、びびっております。はてな記法にもまだ慣れていないというのに。
さて、ブコメやコメントを多数つけていただきましたが、そのうち追加の解説が必要だと思うものをいくつか取り上げさせていただきます。なお、idコールした面々については敬称略ですがご了承ください。

続きを読む

「ついにNASAが認めた!地球温暖化詐欺!」記事のホントのところ

結論の要約

結論から言うと、懐疑論の記事は実に都合のよいトリミングの産物にすぎず、NASAは相変わらず人為的な気候変動は大問題だと考えております。嘘だと思うならばNASAのウェブページをご覧になればよろしい。

ここがNASAの気候変動特集ページで、ここが気候変動の原因についての解説です(英語)。

本文

今回は実に孫引き孫引きの連続ですが、きっかけは以下の記事。
ついにNASAが認めた!地球温暖化詐欺!:ハムスター速報 - ライブドアブログ
および同はてブ

その記事が引いているこの記事で「最近のNASAの研究が人為的な温暖化を否定した」という風に読み取っていた元の記事を読んでみましょう(最近といっても2008年の記事ですで、本気で「認めた」ならなんで気候変動特集ページがそうなってないんだという疑問が)。

この記事はさらにNASAのこの記事を引き写していると書かれています。

確かにそれっぽい語句は並んでいますね。"Non-Human Influences on Climate Change"とか。
…これ、正しく訳せばたとえば「人以外の気候変動への影響」であって、「人と気候変動との関わりがない」という風に読めば勘違いになります。

また、懐疑論のブログでは「この研究において、太陽の輻射による気候変動の証拠が産業革命の時代までさかのぼって見出された」とあります。が、そんな記述はこのレポートには実在せず、代わりに「産業革命以前は太陽が主な気候変動の要因だった」という記述があるのみです。もちろんそのことはすでにIPCCも認めている通りですし、今も影響を与えていないわけではない。


では本当のところ、具体的にどの程度の影響があるとNASAの科学者は考えているのでしょうか。元記事を読み進めると、「太陽の変動によって気温は0.1℃前後変化する」という部分が見つかります。


"The fluctuations in the solar cycle impacts Earth's global
temperature by about 0.1 degree Celsius, slightly hotter during solar
maximum and cooler during solar minimum," said Thomas Woods, solar
scientist at the University of Colorado in Boulder.
またその直後には、現在の太陽は極小に近く、2012年にはおそらく最大になるだろうという記述も。この記事に出てきたもともとの研究は、太陽活動の11年周期が気候に影響を与えてきた事が過去の気温にさかのぼって読み取れたというものなので、タイムスケールも温度の幅も小さいわけです。
一方、現在見出されている地球温暖化は、ここ100年で0.6℃。2004年の少し古い研究ですが、そのうち0.15℃が太陽の活動量の変化によるもので、それは25%に相当すると見積もっています。

Over the past century, Earth's average temperature has increased by
approximately 0.6 degrees Celsius (1.1 degrees Fahrenheit). Solar
heating accounts for about 0.15 C, or 25 percent, of this change,
according to computer modeling results published by NASA Goddard
Institute for Space Studies researcher David Rind in 2004.
25%というのはもちろん決して無視できない大きさですが、残りの75%は太陽以外が原因であり、その大部分が人間の活動によると今のところ考えられているわけです。

まったく、気候変動懐疑論の良いとこどりにはいつもあきれるばかりです。

「世界が日本人の生活すれば地球2.3個必要」 についての解説

 これはエコロジカルフットプリントと呼ばれる持続可能性指標の一つを使っている表現ですが、どうも誤解を招きやすいようなのでちょっと解説を。
 エコロジカルフットプリントは、人間の活動によって生じた環境負荷を回復するのに必要な地球の表面積として算出されます。環境負荷とはこの場合、食物の生産・化石燃料の消費とそれによる二酸化炭素の排出そして建造物などの面積、を見ています。食物の生産は生産に必要な農地と牧草地の面積、二酸化炭素の排出はちょっとややこしいですが海に吸収される分(排出量の約半分)を控除した上でその吸収に必要な森林の面積、また食料のうち漁業については標準的な生産能力を仮定した大陸棚としてのそれぞれ面積を計算しています(厳密には森林と炭素吸収用地は別に計上されているのですが、ややマニアックになるので省きます)。そうして計算された「人類の生活に必要な面積」を(地域ごとの生産能力を考慮してGlobal Hectareという単位に換算した上で)、地球の陸地と大陸棚の総面積で割り算すれば、地球がいくつ必要になる、という話になります(海洋のうち大陸棚でない部分の生産能力は知れています)。
 ここで重要なのは、これらの面積は年当たりの生産力で表現されているということ。つまり、たとえば二酸化炭素の吸収に必要な森林の面積とは、単位面積あたりの森林の木の重さで評価するのではなく、単位面積あたりの木の一年当たりの増加量・生長量・生産量で見ています。Annual(一年の)とかYield(生産量)でcalculation methodology paper (英文pdf)の文書内を検索していただければすぐ分かると思います。
 このことが分かっていれば、「今年の世界全体のデータでは、8月21日に、地球1個分を消費し尽くしたという。」という分かりにくい元記事の話も理解できます。つまり、1月1日から8月21日までで、地球が一年間にまかなえる生産能力を全て人類は使い尽くしたということ。これはフロー(流量)の分析なので、不足分はストック(貯蓄)を食いつぶすことで誤魔化していることになります。ここでのストックとは、森林や魚の資源、それに化石燃料などが相当します。
 ちなみに日本は29番目というのは良いのか悪いのかという話ですが、もちろん悪い方から数えて全部で160カ国程度の中でこの順位ですから、当然良くはありません。富の規模と比較すれば、生産において効率良く地球を使っている、とも言えるのですが、いかんせん絶対量が大きすぎるのです。

 以上、簡単ですが解説まで。

生態系と農業の南限・北限の北上

結論の要約

もし温暖化が起これば、農作物の生産地や野生生物の分布が北上します。もし温暖化の速度が野生生物、特に植物相の移動速度よりも速かった場合、それぞれの南限付近などの状態が不安定となります。また農業は作物の転換や旧来の耕作地の放棄によって一時的に生産量が減ります。

本文

 温暖化し二酸化炭素濃度が高くなると農作物の生産量が増大するというのは懐疑派のよく語るところです。
 実際、日本の気候変動の影響予測でも、2℃程度の平均気温上昇ではイネの収穫量が数%増加すると予測されています。

 高原野菜というものがあります。夏に冷涼な高原でキャベツなどを育てているのです。なぜ冷涼な高原かというと、それらの作物が冷涼な気候を好むからです。冷涼な気候を好む作物にとって温暖化はおそらく生産量の低下を引き起こすことになります。こちらで紹介されているように、リンゴでも南限が北上していることから分かるように、気温が上がったからといって単純に生産増とはならないのです。
 上述の説は結局の所、生物には適温というものがあるという最も基本的なことを忘れた、特殊例の一般化のしすぎであると言う事が出来ます。また、日本のようなマイルドな気候であれば温暖化の善し悪しもまだ分かれるところでしょうが、低緯度の暑い国ではより高温障害の影響が強くなります。
 作物が育つ育たない以外の点でも、温暖化が望ましくない場合はあります。乳業が北海道で盛んなのは、低温で品質の劣化が抑えられるからですね。ワイン用のブドウは気温によって酸の構成や糖度が変化してしまいます。暖かい場所で育てたリースリング(白ワイン用ブドウでも寒冷地向きとされる品種)のワインが美味しいはずはありません。

 逆に高緯度の国では耕作に適した土地の面積が広がると予想されています。南限が北上する以上、北限も北上するのが当然です。
 リンゴのところで話題に上っていた品目別地球温暖化適応策レポート(PDF)の20ページを見ると、ミカンはもともと日本全体が低温すぎる地域であって、温暖化によって耕作に適した面積はずっと広がります。ただしよくよく温暖化後の地図を見てみると、今適地とされている場所はほぼすべて高温になり過ぎると評価されています。ミカン農家は農地ごと全て引っ越ししなくてはなりません。
 …もちろんそんなことはできません。南限の北上によってそこの農家は作物を変えるか廃業するかしますから生産量は速やかに減少しますが、北限の北上によって自動的に生産量が増加するのではありません。同じ作物でも高温に強い品種への変更によって適応する方策がありますが、一年生のイネやら野菜やらならばまだしも、多年生の果物では農家にとってより大変なことになるでしょう。最後に、シベリアの広野を農地にするのに入植するのは誰なのかという話ですね。インフラの整った農地を放棄するのは無料でも、荒野に新しく灌漑設備を引いたりするのには相当なコストが掛かるのです。
 たとえ温暖化が究極的に農業生産の総量を増加させる方向に働くのだとしても、過渡期の段階に見込まれる損失というのも実のところ非常に大きいのです。そして温暖化を恐れるに足りないとしている人は、例外なくこの側面を無視しています。
 全体としてはこの記事などがよくまとまっています。


 生態系への影響も、このリンゴやミカンの地図のようなものです。中でも最も深刻だと考えられているのは植生帯の移動速度と温暖化の進み方との関係です。動物は自分の足なり翼なりで移動できますが、植物は自身を移動させることは出来ず、植生の移動とは種子の散布による子孫の移動のことです。多年草の場合、適切な植生区分から外れたからといって直ちに枯死するわけではありません。しかし開花結実や種子の発芽生長に不都合が生じやすくなったりしてそこで子孫を残すことが困難になります。
 この種子を通じた移動の速度は、想像出来るとおりさほど速くありません。散布形式によっても変わってきますが、年に100メートルから1キロ程度が一般的です。そして最も起こりそうな度合いでの温暖化による植生帯の移動は、今世紀末までに平野部で200キロ程度と見て良いでしょう。年2キロということで、大抵の木はついて行くことが出来ません。植生帯の南限付近では森林が脆弱になるかもしれません。特に日本で言われているのはブナ林の多くが消滅して、コナラ林に置き換わるというものです。このほかには高山植物のように逃げ場のない種は絶滅する恐れが非常に強いです。詳しくはこの記事を参照。


 ここまでは気温単独で話を進めてきましたが、もちろん降水パターンの変化も同時に考慮に入れなくてはなりません。特に半乾燥地域に広がる穀倉地帯で降水量が減るかも知れないのが気に掛かります。こうした場所は灌漑もしっかりしているとはいえ、余計に水を必要とするようになればそのしわ寄せは必ずどこかに―たとえばアラル海が干上がったり地下水が枯渇したり、あるいは塩害が生じたりという形で―出てくるものですから。

 最後に農業における二酸化炭素施肥については、温室での統制された環境での実験に比べて実際の圃場では半分程度の効果しか上がらず、ほとんどの農地では来世紀には気候変動の悪影響の方が大きく出るという論文が2006年のScienceに載っています。懐疑派の人がよく参照する"the Oregon Petition"にも二酸化炭素施肥の事は書かれているのですが、それが依拠した研究は1974年のもの。新しいから必ず正しいというわけでもないでしょうけれども、研究の蓄積という意味ではこのようになっています。

降水パターンの変化

結論の要約

 もし地球が温暖化したとすると、雨の多い場所では雨が増え、乾燥した場所はさらに乾燥します。降水量が両極端に近づき、洪水と干ばつが増える恐れがあります。

本論

 これを理解するための最も初歩的な知識は飽和水蒸気量曲線です。この曲線は下に凸の単純増加です。言い換えればぎゅーんと上昇していくグラフです。たとえばこちらにグラフが紹介されています。また数値計算にはこちらのスクリプトを利用しました。


 雨が降るというのは、水蒸気を含んだ空気が冷やされることで飽和水蒸気量が下がり、持っていた水蒸気の一部を保持しきれなくなって放出したもの、と考えることが出来ます。
 たとえば24度の空気の飽和水蒸気量は21.8g/m3、20度の空気では17.3g/m3であり、その差は4.5g/m3です。ところが平均気温が上がったとすると、これがたとえば4度の上昇によって28度と24度になったりするわけです。28度の空気の飽和水蒸気量は27.2g/m3ですから、その差は5.4g/m3となり、前者よりも大きくなります。飽和水蒸気量曲線は下に凸なので、これはどの点でも成立します。つまり、水蒸気の供給が十分な、すなわち雨の多い場所では、平均気温の上昇によってより降水量が増えそうだと一般論として言う事が出来ます。

 一方、乾燥している場所ではどうでしょうか。例として大陸西岸の砂漠のような状況を考えてみます。アタカマ砂漠ナミブ砂漠など、大陸の西側の中緯度(南北それぞれ10°-20°前後)には砂漠ができやすいのですが、それはそばを通る寒流と、その上を通る偏西風が原因となっています。寒流の上を通った風は水蒸気をかなり含んでいますが、とはいえそれはあくまで低い温度ででの話です。ここでは仮に15度で水蒸気を飽和した風が流れ込むと考えましょう。この風は12.9g/m3の水分を含んでいます。これが上陸すると、昼間熱せられやすい陸地の影響で。気温が一気に高くなります。砂漠の気温を40度とすれば飽和水蒸気量は51.1g/m3、相対湿度は25%という乾燥した気候になることが分かります。この空気を飽和させるのに必要な水蒸気の不足分は38.2g/m3。ちなみに夜は冷え込むのが砂漠でして、ナミブ砂漠では冷たく湿った海風により朝霧がよく生じます。しかし西岸砂漠は上昇気流が起こりにくいので、この水蒸気が雨を降らせる雲となることはまずありません。
 さて、この乾燥した砂漠が温暖化すると何が起こるか。海上と陸上の気温をともに4度上昇させてみましょう。水蒸気の不足分が46.0g/m3とさらに乾燥してしまっています。例によって飽和水蒸気量曲線は下に凸ですから、温度上昇はその幅に関わらず、乾燥地帯をより乾燥させるのです。

 もちろんこれは最も初歩的なモデルに過ぎず、実際にどこでどのように降水パターンが変わるかはもっと様々な要因にも左右されます。しかし、「温暖化すれば作物の収穫量が増える」などという単純な考え方にはこうしたことはほとんど考慮されていません。

補足

 こと日本への影響について言えば、年間降水量は微増すると考えられています。ただし雨の強い日と晴天の日の割合がそれぞれ増えるとも予測されていますから、洪水のリスクは降水量の変化以上に高まるでしょう。詳しくは地球温暖化予測情報 第5巻 降水量の変化(PDF)などをご覧下さい。

「地球はミニ氷河期に突入した。」記事のホントのところ

「地球はミニ氷河期に突入した。」と発表(ドイツ研究所) : カラパイアという記事が注目を集めています。

「地球ミニ氷河期説」は、北極が2013年の夏までに、完璧に融けてしまう「地球温暖化説」と1900年から始まった地球温暖化は人類が排出した温室効果ガスが原因であるとのこれまでの認識を覆した。


このようにあって、例によって気候変動懐疑派の人が喜び勇んでブックマークコメントを書いているけれども、さてこれはどこまで正確な記事なのかと心配になったので、記事中に出てくる本家Daily Mailのページを読んでみました。

続きを読む