「世界が日本人の生活すれば地球2.3個必要」 についての解説

 これはエコロジカルフットプリントと呼ばれる持続可能性指標の一つを使っている表現ですが、どうも誤解を招きやすいようなのでちょっと解説を。
 エコロジカルフットプリントは、人間の活動によって生じた環境負荷を回復するのに必要な地球の表面積として算出されます。環境負荷とはこの場合、食物の生産・化石燃料の消費とそれによる二酸化炭素の排出そして建造物などの面積、を見ています。食物の生産は生産に必要な農地と牧草地の面積、二酸化炭素の排出はちょっとややこしいですが海に吸収される分(排出量の約半分)を控除した上でその吸収に必要な森林の面積、また食料のうち漁業については標準的な生産能力を仮定した大陸棚としてのそれぞれ面積を計算しています(厳密には森林と炭素吸収用地は別に計上されているのですが、ややマニアックになるので省きます)。そうして計算された「人類の生活に必要な面積」を(地域ごとの生産能力を考慮してGlobal Hectareという単位に換算した上で)、地球の陸地と大陸棚の総面積で割り算すれば、地球がいくつ必要になる、という話になります(海洋のうち大陸棚でない部分の生産能力は知れています)。
 ここで重要なのは、これらの面積は年当たりの生産力で表現されているということ。つまり、たとえば二酸化炭素の吸収に必要な森林の面積とは、単位面積あたりの森林の木の重さで評価するのではなく、単位面積あたりの木の一年当たりの増加量・生長量・生産量で見ています。Annual(一年の)とかYield(生産量)でcalculation methodology paper (英文pdf)の文書内を検索していただければすぐ分かると思います。
 このことが分かっていれば、「今年の世界全体のデータでは、8月21日に、地球1個分を消費し尽くしたという。」という分かりにくい元記事の話も理解できます。つまり、1月1日から8月21日までで、地球が一年間にまかなえる生産能力を全て人類は使い尽くしたということ。これはフロー(流量)の分析なので、不足分はストック(貯蓄)を食いつぶすことで誤魔化していることになります。ここでのストックとは、森林や魚の資源、それに化石燃料などが相当します。
 ちなみに日本は29番目というのは良いのか悪いのかという話ですが、もちろん悪い方から数えて全部で160カ国程度の中でこの順位ですから、当然良くはありません。富の規模と比較すれば、生産において効率良く地球を使っている、とも言えるのですが、いかんせん絶対量が大きすぎるのです。

 以上、簡単ですが解説まで。