「ホッケースティック曲線」批判を主眼に据えた懐疑論

結論の要約

懐疑論者が何故か目の敵にする「ホッケースティック曲線」は第四次評価報告書(以下AR4)から削除されてなどいません。また筆者が自説の補強の為に紹介した再現気候の研究もAR4には載っているのですが、あたかもそれらをIPCCが認識していないかのように書いているし、また研究の選び方もかなり恣意的です。

本文

 このグラフはAR4の第一作業部会報告書の技術要約日本語版の図TS20から取りました。MBH1999というグラフがMannらによる、いわゆるホッケースティック曲線です(出典の確認にはFull Reportに当たる必要があります)。ちゃんとエラッタも調べましたが、「不適切なので削除する」というような記述もありませんでした。
 ちゃんと評価報告書を読んでいれば、そもそもこんな事実誤認などしないと思うのですが…。読まずに批判している事がよく分かります。この曲線のグラフは赤祖父本から取ったようですから、このデマの出所もそこでしょうか。

それから、Mannの結果が誤りと言えるほど他と比べておかしいかというと、それも正しくありません。6ページの図を見ていただければ、白いギザギザがかなり広い範囲に描かれているのが分かります。これは「一定の確率(元論文は読んでないのですがおそらく90-95%)の確率で、その時代の気温はこの内側のどこかに落ち込む」ということを示しています。特に1600年以前は相当に誤差範囲が広く、およそ±1℃にもなろうかという程です。翻ってAR4のグラフを見れば、ほぼすべてのグラフがその範囲に入るのが分かります。そもそも古気候学のデータは誤差の大きなものです。それはこれらの曲線が互いに大きくばらついていることを見ても明らかです。これらを平均化すれば、結局は誤差範囲を含めて「ホッケースティック曲線」と大差ないものになります(Full ReportのFig 6.10参照)。

付け加えると、本書図0-2は恣意的なデータの選び方をしていると指摘できます。ここに書かれているMann以外のグラフはいずれも上のグラフにも描かれています。MSH2005とPS2004です。Mannのグラフが1600-1800年頃について高めに描かれているのは見ての通りですが、逆にMSH2005とPS2004が当該期間について他より低めの見積もりを出しているのも明らかです。これは「近年の気温上昇も、単に三〇〇年前からの気温上昇(小氷期からの回復)の延長に過ぎないように見える」というストーリーに合致するものだけを選んだように思われます。他にもいろいろな再現気候の研究があるのにこの2つの研究だけしか知らなかった、というのはちょっと信じがたいですから。
この筆者は「中世温暖期」がMannらの曲線からは読み取れないことを非常に重要視しています。それは39ページで、第1次報告書の古気候グラフではそれが見られたことを誠実さの証と見ている事からも明らかです。しかし、そもそも「中世温暖期」というのはヨーロッパで顕著に見られたものの、全球的にはさして温暖な時期でもなかったという事が後になって分かってきます。初期の研究では文献や観測結果(そのほとんどはヨーロッパなどに偏在している)による気温の再現がほとんどで、年輪などを使うような物理化学的な手法があまり使われていなかった為にそれが分かっていなかったのです。「中世温暖期」にこだわることは、科学としてはあまりお勧めできません。

本書では、ホッケースティック曲線を根拠に人為的に温暖化が進んでいるとIPCCが言っていたが、その根拠が崩されたので人為的に温暖化は嘘だ、というロジックが繰り返し用いられます。ところが現実には、そもそもAR4から削除されたりした事実が無いわけで、事実誤認が本書の根幹となってしまっているのです。しかも自説の補強の為に、複数の研究の中から見せる物を恣意的に選んでいる。

今更そのやり口がどうだとか、言いませんけどね。