「ついに地球が本格的な「寒冷化時代」に突入した可能性」記事のホントのところ

ご無沙汰しております。

元ネタはこちら。またDaily mailの飛ばし記事ネタですか。そういえば最初にここで記事を書いたのもそれ関係でしたね。

結論の要約

北極の氷は、前年が異常すぎるほど融けていたから前年比で回復したように見えるだけで、今年も30年平均のトレンドで見れば順調(?)に減少傾向と言えます。
南極の氷はもう少し温暖化との関係が分かりにくいですが、温暖化で海表面は凍りやすい条件になることが示唆されています。

本文

南極

 説明の便利のため南極の話から行きます。
 まず気をつけなければならないのは、当該記事で取り扱っていたのは南極海に浮かんでいる海氷の話だということです。南極大陸に乗っかっている陸氷とは分けて考えなければなりません。そして海面上昇に直接寄与するのはあくまで陸氷の減少で、海氷はあまり関係ありません。
 さて、南極の陸氷の総量は、IPCCの2007年報告書を読む限り、総体としては近年減少しているようです。(下図参照。赤の領域が増加、青が減少)ただし単純に温暖化したから氷が融けた(南極半島はおよそこれ)というよりは、温暖化を通じた降水パターンの変化などいろいろな影響の結果といえます。


 南極で海氷面積がずっと増え続けているのは、一貫した傾向として昔から広く知られています。一見するといわゆる温暖化とは相反するように見えるこの現象について、最近ではいくつかの説明がなされています。
 海氷面積は北極でも南極でも、海水温と風と気温が大きく影響します。温度は自明として、風が強いと氷が壊されやすかったりします(それ以外の効果もあります)。南氷洋ではそれに加えて塩分も影響します。塩分が薄いほど凍りやすいのは高校化学で学ぶとおりで、海水の塩分を薄めるのは南極の陸氷が融けてできた真水です。北極の氷は海水が凍ったものですが、南極大陸の氷は雪ですね。南極から真水が流れ出すと周囲の海の水が凍りやすくなるわけです。
 もちろん北極圏にもグリーンランドなど陸氷はありますが、南極ほど大きな影響力はないようです。
 その他、その真水が海の温度層を保護すること(密度の低い真水が表面にあるので対流や湧昇流が抑えられ、その場で凍ってしまいやすくなる)や風の影響等について説明している記事(南極の海氷が増える原因@自然史ニュース)も併せて読まれると良いでしょう。
 つまり、南極の陸氷が減ったことが海氷の増加に寄与しているらしく、それはどうも南極地域の気候変動(特に温暖化など)によって引き起こされているらしいと考えられています。

北極

 北極の氷のグラフはNSIDC (National Snow & Ice Data Center)のを見るのが一番良いと思います。何より氷面積の下限がちゃんと0から表示されるのが良い。
 2013年現在、ページを開くと黒いグラフが最近30年の平均面積(とその上下2σ)、緑の点線で2012年の面積と薄紫の2013年の面積データが見えます。2012年の最小面積が30年平均の55%しかないという、ちょっとどん引きする惨状でした。確かに北半球全般に相当暑い夏ではあったようですが(NOAAの記録でも歴代最高の赤い領域がたくさんあります)、それだけで説明しきれることでもないのは前述の通りです。それに比べると今年はおとなしい…のも確かですが、充分良くない状況であることもおわかり頂けるでしょう。
 毎年8月(ちなみにだいたい例年9月が最小期)の月平均面積の経年グラフは、ブコメでkknsdさんも指摘していたNSIDCの別ページの図3を見てみましょう(下図)。回帰直線(と呼ぶのは学術用語的にまずい気がするのですがまあそういうもの)を見ても、別段これで回復傾向とは言えないでしょう。2008年頃にも懐疑論者は大騒ぎしてたんだろうなーと思う程度です。


 もうちょっとさかのぼった記録が見たいという疑い深いもとい慎重な方には、IPCCの2007年報告書にある、1860-1900年頃からの海氷面積のグラフを紹介しておきます。
 結論として、温暖化が一段落したなんて言えるような兆候は今のところ特にありません。